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理事長あいさつ

公益社団法人 日本実験動物学会

理事長三好 一郎

三好 一郎

理事長就任にあたって

令和2年5月に開催された第67回日本実験動物学会総会において,浦野徹前理事長の後を引き継ぎ,令和2〜3年度の理事長を拝命致しました。この度の総会は,新型コロナウイルス感染拡大防止のために通常の開催が困難となったことから書面による議決となり,異例のスタートとなりました。本学会は昭和26年(1951年)に実験動物研究会として設立されて以来63年の長きにわたる歴史を有しており,その理事長職という大役を仰せつかったことは大変光栄なことであると共に,改めてこの非常時での責任の重さを感じております。

本学会設立当時の基本的な目的は,微生物学的あるいは遺伝学的に均質な実験動物の供給,がん研究に必要な特殊な系統の供給,均質な飼料の供給,並びに飼育管理方法の改善などと記されています。その後の30年間でこれらの目的は達成され,さらに医学研究や医薬品開発のために多様な目的に対応した高品質の実験動物や疾患モデルに代表される特性を持った実験動物の開発へと展開されました。特に,1980年代半ばから,急速に進歩した遺伝子工学・発生工学技術を用いて作製することが可能になった遺伝子組換えマウスは,様々な生体機能を個体レベルで解析するために必須の手段となりました。この潮流はゲノム編集に発展し,マウスに限らず多様な病態モデル動物が樹立されております。これらに関する学術面およびその周辺の領域について,本学会員らによる研究成果や開発技術は国内外で高く評価されると共に基礎研究分野および産業界へ広く波及し,医療技術の開発や生命科学研究の発展を支える基盤技術として,また重要な遺伝資源として実験動物が認識されるに至りました。

一方,この度の新型コロナウイルス禍では,これからも予想される人類・動物の健康と幸福への脅威を克服するために,如何に実験動物を用いた生命科学・医学研究が重要であるかという事実に加えて,実験動物の維持・供給,各々の機関の事業継続計画に対応した動物実験施設の管理運営など,研究の基盤となる適正な実験動物の飼養保管と適切な動物実験の実施に関して俯瞰的視点から取り組むべき喫緊の課題が浮き彫りとなりました。

本学会は,医学,獣医学,薬学,畜産学などの広い分野のみならず領域を越えた異分野・異業種の研究者や技術者が参集し,多様性と包含性を維持しつつ時代の要請と調和を図りながら発展してまいりました。あらためて原点に立ち返り,学会の根幹である学術集会や 学術情報の提供などサイエンスの基盤に基づき,実験動物に関する基礎および応用研究の発表,知識の交換,連絡,情報の提供を行うことにより,実験動物学およびその関連領域の進展,普及を図り,我が国における学術の発展および科学技術の振興に寄与して参りたいと考えております。

私は,浦野前理事長を始め,本学会を牽引してこられた諸先輩方に敬意を表すると共に,これまでの改革を継承し,学術団体としての活動を発展させてまいります。特に,次世代を担う人材の育成は優先すべき急務であり,関連学協会等と連携して若手会員が活躍できる環境づくりを推進致します。一方,本学会にはコンプライアンスへの取り組みという重要な課題があります。動物愛護管理法の見直しへの対応を始め,これまで推進してきた適正な動物実験実施のための機関管理体制のさらなる強化に向けて,実験動物管理者教育や外部検証制度推進のための人材育成事業を継承し進化させてまいります。また,人類・動物の健康と幸福,加えて環境を守るために,適正且つ洗練された飼育環境で維持された実験動物を対象に充分に吟味された適切な実験計画を遂行していることを一般の方々にご理解頂き,安心してその成果をご期待頂けるよう,情報の発信に取り組んでいきたいと考えております。改革に際しては変えるべきものと変えてはならないものについて議論を尽くして認識の共有を図り,学会としての価値観を形成することが肝要です。特に,新型コロナウイルス禍により,学会のあり方や運営について今後の方向性を模索する必要性が明らかになりました。会員の皆様からのご意見・提案がございましたら遠慮なくお申し付け下さい。社会からの要請に応え,本学会の発展と使命の達成に向け,誠心誠意努力する所存です。皆様のご理解,ご支援,ご指導をいただきますよう何卒宜しくお願い申し上げます。