理事長あいさつ
公益社団法人 日本実験動物学会
理事長小倉 淳郎
理化学研究所バイオリソース研究センターの小倉です。この場をお借りして、(公社)日本実験動物学会会員のみなさまに理事長就任のご挨拶を申し上げます。
令和6年5月に京都市みやこめっせにて開催された第71回日本実験動物学会総会とそれに続く新理事会において、三好一郎 前理事長の後を引き継ぎ,令和6〜7年度の理事長を拝命致しました。昭和26年(1951年)の創設以来、73年の長きわたる歴史をもつ学会の理事長という大役に指名され、ひしひしと責任の重さを感じております。これまでExperimental Animals編集委員長などいくつかの役職を務めた経験はありましたが、学会の運営全般に責任を持つにはまだまだ学ぶべきことも多いと考えております。大勢の関係者の方々にご協力を頂きながら、2年間と短い期間ですが、その間、学会が着実に発展できるよう最大限の努力を尽くす所存です。
日本実験動物学会は、令和6年3月31日現在、1011名の正会員、95社の維持会員、7名の名誉会員からなる多くの学会員により、多様で活発な学会活動が続けられています。その活動内容は非常に多岐にわたり、我が国の実験動物関連の学術活動から社会的・公益的活動まで、そのほとんどを網羅するまでに広がっています。その活動範囲の広さは、15にもおよぶ常置委員会の数にも現れています。すなわち、日本実験動物学会は、他の学術団体同様に学問としての実験動物学を中心に据えながら、同時に関連の団体・業界、そして動物実験に目を向ける一般の方々との協力関係を維持しながら活動を進めることにより、実験動物学の一層の健全な発展を促進するという重要な責務を負っています。そして、これらの学会の責務は、それぞれの高い専門性を持つすべての会員によって成し遂げられているものです。役員一同は、これら会員を中心とした学会活動が円滑に運営されるよう、最大限の努力を致します。
【総合生命科学としての実験動物学】
本学会は、医学、獣医学、薬学、理学、畜産学およびこれらの学際領域の研究者が集っています。この本学会における多様な専門性は、学術大会に参加されたすべての方々が肌で感じられることと思います。すなわち、実験動物学は総合生命科学としての重要な役割を持っており、多様な学問領域の交差点としての地位を形作っています。よって日本実験動物学会が主催する定期学術集会、実験動物科学シンポジウム、維持会員懇談会などの集会は、我が国の生命科学の趨勢や最新の情報を理解する貴重な機会であるとともに、実験動物学の重要性を世の中に喧伝する絶好の機会でもあります。これらの学術集会活動は必ず幅広く、我が国の生命科学の発展に寄与するものです。会員の方々には、ぜひこれからも実験動物学を通じて我が国の生命科学を牽引しているという気概を持って頂き、学会のさまざまな学術集会へ積極的にご参加・ご発表をして頂くことを切に願っております。
また、学術集会だけでなく、機関誌Experimental Animalsおよび実験動物ニュースも、総合生命科学としての実験動物学の最新の知見を日本および世界に発信する使命を担っています。会員のみなさまのおかげで、いずれの機関誌も、執筆者層および読者層が年々厚くなっています。ぜひ、今後も会員のみなさまには投稿・執筆を続けていただき、両誌の発展を支えて頂きますよう、お願いいたします。
【実験動物学と社会】
言うまでもなく、実験動物学は動物の命を扱う学問です。動物福祉の考えが広まるにつれ、人が動物実験の結果から享受する利益と動物が受ける不利益のバランスが問われてきています。日本実験動物学会は、このバランスを適切に保つことにより、動物実験が支える人の健康と幸福が維持され、同時に一般社会の大部分の方々から動物実験への理解が得られるように長年にわたり努力を続けています。実験動物の取り扱いには法令が関係することから、関連省庁や各種団体との協力関係・情報交換を維持し、一方で国内の動物実験が適切な管理・運営のもとで行われることを担保しなければなりません。これらの実現のために、多くの学会員がその専門性のもとに時間と労力を使って尽力しています。関連委員会活動も、動愛法等対策委員会、人材育成委員会、外部検証委員会、実験動物管理者研修制度委員会、動物福祉・倫理委員会と5委員会にのぼります。すなわち、これらの活動があって初めて、私たちが動物実験を通常通りに実施できているということを多くの方々に認識してもらいたいと思います。来年(令和7年)には動物愛護管理法の改正が行われようとしています。様々な話合いも始まっており、ますます実験動物学会がそこに果たす役割の重要性が高まろうとしています。学会員のみなさまには、ぜひこれらの活動にご理解・ご協力を頂きますよう、お願いいたします。
【会員1人1人が主役の学会へ - そして次世代へ】
日本実験動物学会は、三好前理事長を始め,歴代の理事長によって強力に牽引されてきました。私は大学院修了後、国立予防衛生研究所(予研、現国立感染症研究所)への入所を機に本学会へ入会し、それ以来、一会員として過ごしてきました。年一度の学術大会でお会いする理事長はいずれも頼もしく、見るからに強力なリーダーシップが全身からほとばしっていました。このため、まさか自分がその立場になるなど、夢にも思っていませんでした。これまでの理事長の方々は、我が国の実験動物学の黎明期に学問としての基礎を築き上げ、学会を学術団体として立派に発展をさせました。その結果、現在では、実験動物学も多様化し、かつ他の学問との糾合により学術的にも高いレベルに至っています。これを背景に、すぐれた人材も数多く育ってきました。よって、今後の日本実験動物学会は、会員1人1人が主役で、そしてその総合力が本学会の原動力であってほしいと思います。多くの方が感じられたと思いますが、このたび新しく始まった「優秀発表賞」の学術的レベルは驚くべきものでした。今後もお互い切磋琢磨して、相乗作用的に本学会が活発化していくことを期待します。そして、本学会はその社会的な役割もありますので、できるだけ多くの会員がそれを理解し、その役割を少しずつでも分担して頂けるよう、切に願っております。これらの活動をもとに学会が継続して成長するためには、次世代を継続的に勧誘できるようなさらに魅力的な学会にする必要があります。次世代の日本実験動物学会は、時代に応じて変容していくことと思いますし、また変容しなければなりません。AFLAS等を通じた次世代の国際交流関係の維持・発展も重要になってくるでしょう。さまざまな集会や活動を通じて、次世代を引き込めるようにしたいと思います。ぜひ、会員のみなさまには一層のご協力をお願いいたします。